海外文学−ハ行





  トマス・ハリス 『レッド・ドラゴン』 小倉多加志 早川書房  2002

「羊たちの沈黙」「ハンニバル」シリーズの一作目。
FBIを引退し穏やかな暮らしを送っているウィル・グレアムのもとに連続猟奇殺人事件への捜査協力の依頼がくる。
並外れた集中力と直観力、そして、食人鬼ハンニバル・レクター逮捕という経験が買われたのだ。
それはウィルにふたたび、あの悪夢をおもいださせるだけでなく、自分や家族を危険にさらすことに・・・
出番は少ないものの、レクターの存在は大きい。
レクターなしでも充分この作品は成立する。そこそこ、面白い本になっていただろう。
しかし、レクターというなんの感情もない冷血な、しかし悪魔的魅力を持つ怪物抜きにしたら、
この作品は、わさびのない寿司、カラシのないおでん。。。 になっていたことだろう。


ロバート・B・パーカー 『ゴッドウルフの行方』  菊地光   早川書房 1984

私立探偵スペンサーは奇こう本の行方を探すよう大学経営者から依頼を受けた。
その矢先、親への反発から反体制を気取る金持ちの女子大生が事件に・・・
タフでスマート、屁理屈こきで女に弱いスペンサーの活躍。


ジャック・ヒギンス 『鷲は舞い降りた・完全版<』菊地光   早川書房 1992

ヒットラーの思いつきとヒムラーの命令のもと、「チャーチル誘拐作戦」
ドイツ軍精鋭の落下傘部隊・IRA兵士・元イギリス軍兵士・上品な老婦人スパイ・・・。
一癖も二癖もある人物たちが実行に移していく。大がかりだが人間味あふれる冒険小説。


フレデリク・フォ−サイス 『オデッサ・ファイル』 菊地光    早川書房 1984

ユダヤ老人の残した日記を手に入れたフリーライターのミラーは、そこに書かれたナチSSの残党
ロシュマンについて独自に調べ始める。 彼の行動はナチ残党救済組織オデッサのしれるところとなり・・・
ひきこまれて読みすすみながら、普通の人がなぜそこまで、という疑問はラストに一気に明かされる。
浪花節的ではあるが、ものすごく納得。


F・フォーサイス 『ジャッカルの日』 角川文庫    1979

ドゴール暗殺に雇われたプロの殺し屋ジャッカルは周到な準備と計画で狩りに臨む。
なに一つ手がかりのないところから、ジャッカルを追跡するフランス警察のルベル刑事もプロである。
追う者、追われる者。どちらも互いの姿は見えない。息もつかせぬサスペンス。
クールな文体。社会的背景も詳しく書かれ、事件が絵空事でなく納得できる。


F・フォーサイス  『アヴェンジャー 上下』   篠原真・訳  角川書店  2004

貧しい家庭に生まれたキャル・デクスターは、ベトナム戦争から帰還後、弁護士となり、平穏な家庭生活を送っていた。
しかし、幸せな家庭は凶悪犯によって破壊された。犯人グループをつきとめ、人知れず復讐(avenge)を
果たしたキャルは、コードネーム、アヴェンジャーとして、警察力の及ばない凶悪犯を探し出し、
生きたまま、司法に引き渡すという裏稼業をしている。
カナダの大物財界人スティーブ・エドモンドの孫がボスニアで人道支援活動に参加中、行方不明になった。
その事件の真相は、6年後、ようやくあきらかになった。
犯人は、内乱状態にあったユーゴスラヴィアで暗躍していたマフィアの中でも、最も冷酷で凶悪なゾラチ。
エドモンドの依頼を受けたキャルはゾラチの行方をさぐるが、暗黒街を巧妙に泳いできただけに、
ゾラチは用心深く、顔もほとんど知られていない。

他方、CIA高官ポール・デブローは、早くからイスラム原理主義者たちの動きに警報を鳴らしていたが、周囲の理解を得られず、焦燥していた。
隠密裏に、ゾラチを利用して、UBL(ウサマ・ビン・ラディン)を罠にかけようとしていたデブローのもとに、アヴェンジャーの情報が・・・
いま、ゾラチを補足されてはすべての計画が水の泡となってしまう。
さて、アヴェンジャーは二重三重の警護をかいくぐってゾラチの身柄を確保することができるか・・・

ここには、ベトナム戦争以後の世界の紛争が微妙にリンクしあっていて、
互いに憎しみを増幅しあったユーゴスラビア情勢、ソ連のアフガニスタン侵攻や湾岸戦争の、
その後の処理のまずさなどなど、現代世界が抱える紛争の系図や裏事情などが、手際よく解説されている。
作品としては、アメリカ人としての自省が働きすぎてか、事件解決のカタルシスは少々弱い。


ケン・フォレット  『針の眼』  戸田裕之  新潮社 1998

ドイツ敗戦を決定づけたノルマンディ上陸作戦は、情報戦・スパイ戦でもあった。
有能で冷酷なスパイ「針」は、連合軍のカレー上陸準備が偽装であることの証拠をつかんだが・・・

ダン・ブラウン 『ダ・ヴィンチ・コード』 越前敏弥訳 角川書店  2004

ルーブル美術館の館長が、何者かに殺害される。死の間際に吐いた言葉を目当てに殺害者は、あるものを探しに行く。
しかし、館長が吐いたのはあらかじめ同士と打ち合わせてあった「嘘」。
館長は、自身の体や血液を使って、ある人にだけわかるヒントを残していた。
館長と会う約束をしていたアメリカの気鋭の宗教象徴学者、ロバート・ラングドンは、
警察側からは犯人と疑われ、別の側からは、謎を解くカギを握る人物として狙われるハメに・・・・
さっそうとあらわれた司法警察暗号解読課の若い捜査官、ソフィーは、実は・・・・
一難去ってまた一難、謎の犯罪者の正体は? と、ジェットコースターミステリーお約束の面白さもあるが、
やはり、面白いのは、ロバートや館長が解き明かした、ダ・ヴィンチの絵に隠されたコード(暗号)。
キリスト教に関する絵や紋章や記号の解釈には、へええ!!そういう意味だったの?!
解釈の仕方一つで、こうも違って見えるのね。と、膝をうつほど面白かったし、
なにより、館長が、同士や家族を守るためさまざま張りめぐらせた暗号やパズルを、ロバートたちが解いていく過程が楽しめた。

おなじキリスト教といってもいろんな分派があるのは知っていたけど、例えば原始宗教とそれ以後だけでなく、
民主党と共和党、カソリックとプロテスタント、・・・などなどの違いの、ある基本の部分がわかったような気がする。

ミステリーとしてはオーソドックスで、わりと早く、伏線が見えてしまったけど・・・


フレドリック・ブラウン 『さあ、気ちがいになりなさい』  星新一訳 早川書房  2005

この本は、1962年に刊行され、その後長いあいだ絶版になっていたのを、復活されたという。
うーん、1962年といえば、わたしがブラウンに出会った、まさにリアルタイムではないか。
わたしのへそ曲がり路線はブラウンによって導かれたといっても過言ではないくらい、強烈な印象を受けた。
当時、初版のこの本を目にしていれば・・・と悔やまれるが、貧乏中学生は文庫本の棚しか見てなかった。残念!
目次の中に既読の作品もあったが、速攻、お買い上げ。すぐに読んだ。

「みどりの星へ」など短編やショートショートが12編。
一つ一つのあらすじや、まして、ネタばらしはできないし・・・
うーん。へんてこショートショートが好きな人は読んで! としかいいようがない
たとえば「電獣ヴェヴァリ」は既読だったのだが、以前読んだときは恐さ、不可思議さがよくわからなかった。
それが、今回は、(わたしの集中力や受け取り態勢の違いもあるかもしれないが)ラストの空気感がじわじわひたひたと伝わってきた。
おそらく、本全体を通してのテーストが複合的に作用しあって、それぞれの作品をさらに引き立てあっての結果だと思う。
表題作「さあ、気ちがいになりなさい」など、読後、わたしは正常だと思っているけど、ほんとに、正常なの? 狂っているのは、どっち?・・
と、思わず、あたりを見回してしまう。
その他、どれも読後に、背中あたりがゾグリとするような感触が残る。

ブラウンは(ミステリーもたくさん書くほど)多作で多彩な作家だったから、これまで読んだ短編集の中では、なんじゃらほい、
といいたくなるような、小手先で書いた軽いものもたくさん含まれていた。
この本は、た〜くさんの短編の中から、星新一が彼の思考と特定の傾向に沿って、選りすぐったであろう、
それこそ選集というにふさわしいラインアップなのだろう。
単なるアイディアだけ、小手先だけではない、SFというレンズを通して見た人間世界。
その歪み、ブラック、ずれ、皮肉、暗喩、・・・ブラウンの真価を味わうなら、この一冊。


ジリアン・ホフマン  『報復』  吉田利子訳  ヴィレッジブックス 2004

ブロンド。スタイル抜群。車はBMW。ニューヨークのマンションでの一人暮らし。
司法試験を目前に控えたクローイには、何一つ問題はなかった。 ボーイフレンドとの関係がちょっとギクシャクしている以外は。
ボーイフレンドと「オペラ座の怪人」を見た後、気まずく別れたその夜、ピエロのマスクをかぶった男が部屋の窓から忍び込むまでは。
レイプ。などという言葉では言いあらわすことのできない陵辱をうけ、失血死を防ぐため、
本人の意識がもどらないうちに子宮が摘出された。
女性にとってこれ以上ない屈辱的な事件だが、ニューヨークではありふれた事件。
犯人は捕まらない。
12年後、クローイは、精神的ダメージを乗りこえ、姓をかえ、呼び名もCJとかえ、
マイアミ市の検察官として連続猟奇殺人事件の捜査にあたっていた。
若い警官が交通違反で取り締まった車のトランクから、若い女性の死体が発見された。
世間の注目、マスコミの騒ぎ、さっそく始まったFBIとの縄張り争い。
検挙された男は、無実を訴える。 が、その声を聞いた瞬間、CJのおぞましい記憶がよみがえる。
ニューヨークの法律ではすでに時効。 なんとしても、今回の犯行を立件し、公正な裁き(一級殺人罪)に導かねば。
しかし、自分と被疑者との関係を知られたら「利益相反」で担当からはずされる。
交通違反検挙には、実は法的不備があった。 そこをつかれたら、不当検挙として、無罪放免もありうる。
そして、なにより、CJは犯人への恐怖感、フラッシュバックするおぞましい記憶と闘わなければならない。

果たして、CJは恐怖心を克服し、精神を奮い立たせて、冷静沈着に捜査ができるのか・・・
確たる証拠を集め、虚々実々の法廷闘争に勝ち抜き、犯人を追い詰めることができるのか・・・
動揺を周囲に気取られずにすむか、ようやく掴みかけた安心できる恋の行方は・・・

ミステリーの構図、裏犯人、一難去ってまた一難のパターンはある程度予測の範囲だったが、
恐怖にうちのめされたCJは精神をどう持ちこたえるか、克服できるか。
その心理過程に応援しながら、共鳴しながら読んだ。
そして、猟奇的事件を扇情的描写やスプラッターにならない、抑制をきかせた筆致が好感。


レベッカ・ブラウン 『体の贈り物』 柴田元幸  マガジンハウス  2001

エイズ末期患者を訪問看護するボランティアの女性と、患者の交流。情緒に流されない抑えた筆致。
主人公にも好感。しかし、辛くて最後まで読めなかった。


ロバート・ニュートン・ペック 『豚の死なない日』『続・豚の死なない日』金原瑞人訳  白水社  1996

久しぶりに再読。
一家は地を這うような貧しい生活をしているが、家族隣人助け合い、いつも心は豊かで、ユーモアさえ・・・。
続は、少年から大人へ。厳しい現実と淡い恋。先生や隣人たちの暖かさ。それでも不況、旱魃・・・厳しい冬がやってきた。
ラストの数ページは何度読んでも涙なしでは読めない。


ホフマン  『黄金の壷』 神品芳夫訳  岩波文庫  1974
文書管理役リントホルストと娘のゼルペンティーナに魅せられる学生のアンゼルムス。
アンゼルムスが宮中顧問官になり結婚することを夢見るヴェロニカ。
審美の世界と現実的出世主義の相克。色彩豊かな幻想文学だが、近代文学を読みなれた身にはかなり読みにくい。


テリ−・プラチェット 『EQUAL RITES  魔道師エスカリナ』  久賀宣人 訳  三友社出版 1997

ハーブを作りお産婆や呪いや民間療法をするのが魔女。それは女の、いっぷうかわった女の仕事。
「見えざる大学」で魔法を修得した人だけがなれるのが魔道師。それは選ばれた男だけに許される称号。
魔道師は死の直前に、後継者に杖を託す。
それがなにをどう間違えたか、生まれたばかりの女の子エスカリナに杖を渡してしまった!
女の子が魔道師?! から巻き起こるテンヤワンヤ。
いたずらで皮肉でお茶目で、ちょっぴり文明批判のインクを垂らした筆にのってディスクワールドを周遊。
ああ、面白かった。


テリ−・プラチェット 『異端審問』   古賀宣人訳  鳥影社 2000

この本は「ディスクワールド」シリーズの13番目にあたるらしい。
偉大なる神・オムはカメに宿った。どう見てもカメにしかみえない神・オムは 下っ端の僧プルサに声をかけた。
「おい!」
無筆のプルサは見たもの聞いたこと、すべてを記憶する。まるでスキャナーのように。
カメに宿ったオムとプルサは・・・
この前読んだ「魔道師エスカリーナ」はエンタテイメント的面白さがあったので、そのつもりで読み始めたが、 最初、わけがわからなくなった。 この本の世界がつかめなかった。
が、途中ではたと気がついた。
これは西欧人にとって絶対神であるキリスト(というか、教会)、それ以前のギリシャローマ神話の神々から アリストテレスやプラトンから老子などの哲学者までを大鍋にほおりこんでかき混ぜたごった煮パロディ。
それがわかったら、プルサとオムの会話が俄然面白くなった。
ディスクワールドシリーズがイギリスでベストセラーなのになぜ日本では・・・と解説にあったが、 少なくともこの本に関してはそりゃあ無理もない。
原典がわからなくてはパロディの半分も理解できないんだもの。(涙)
八百万の神々から、釈迦・空海・親鸞・西行などなどをごった煮にしてパロったら、こうなるのかな。




     


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