日本文学 ー な行
長野まゆみ 『耳猫風信社』 光文社文庫 2003
町ざかいをこえて隣町に日記帳を買いにいったぼくは、風変わりな少年に出会った。
その日から、ちょっとかわったことが・・・現実のとなりにあるファンタジー。
こじゃれた小道具やこじゃれた描写がそれなりにある雰囲気を醸しているが・・・
『サグラダ・ファミリア 聖家族』 中山可穂 朝日新聞社 1998
わたし、石狩響子は、将来を嘱望され、野心に燃えていた時期もあったが、現在はイベントなどで演奏して暮らしをたてているピアニスト。
自分の元を去った昔の恋人透子から、2年ぶりに電話がかかってきた。
「わたし、子どもを産んだの」
レズビアンでありながら子どもを産みたい、という願望が強かった透子は、
なかば強引にバイセクシャルの男と関係を持ち、子どもを作ったという。
子ども嫌いなわたしは、母性あふれる眼差しで子どもの世話をする透子に、なんとも複雑な違和感を持ちながら、昔のように行き来をはじめる。
ある夜、透子からせっぱつまった様子で電話がかかる。
電波の具合が悪いのか聴き取りにくい。
子どもの名を継げただけで、電話は切れる。
その時刻、透子は事故で・・・・
うーん。文学性と通俗性、ドラマ性と繊細さ、自己陶酔と計算、そのギリギリの接点、という印象。
そういう点では、小池真理子に近いかな。
主な登場人物が全員、同性愛者なのはいいとして、脇にいる群像(異性愛者)が、みな、俗悪な人物に描かれているのは、
ちょっと一面的じゃないかなあ・・・
梨木香歩 『からくりからくさ』 新潮文庫 2002
「りかさん」の成長後の蓉子。祖母なきあと、遺された家に染色仲間の女性たちは、
りかさんに導かれたかように同居生活をはじめる。ドラマティックな結末。
タペスリーのように緻密な構成。息が抜けなくて、少々疲れる。
乃南アサ 『来なけりゃいいのに』 祥伝社文庫 2000
表題作はじめ7編。どれも、それまでの日常、普通だと思っていた自分が崩れる一瞬をとらえている。
デビュー直後に書いた短編を編んだらしい。勢いがあった。
菜摘ひかる 『恋は肉色』 光文社文庫 2000
風俗嬢の赤裸々系エッセイ。うぶに見せかける演技力。店で見せる顔と本来の自分。
オトコってアホね、と笑いながら読みすすむうち、だんだん心が痛くなる。
なぜ、ここまでして自分を偽り、痛めてまで・・・
これでは人格壊れちゃうよ。と思ったら、最後に引退すると。なんか、ホッとした。
西澤保彦 『七回死んだ男』 講談社ノベルズ 1995
ぼく、久太郎は生まれつき特異体質を持っている。
それは、「時間の反復落とし穴」にしばしば落っこちること。
つまり、ある特定の一日が、ぼくにだけ何度も繰り返されるのだ。
いつ、どの時点で「反復落とし穴」に落っこちるか予想できないのだが、何度か経験するうち、反復はきっちり9日間続き、
その最後の一日が(みんなにとって)現実となることがわかった。
ぼくが違う行動をとると、違う一日になる。
しかし、歴史を変えてはいけないことくらいは、ぼくにもわかる。
だから、2日目から8日目までは最後の一日へ向けての予行演習としか機能しないのだ。
大手外食産業会長の渕上零治郎には3人の娘がいる。
久太郎の母である長女と末娘は、若い頃、父を嫌って家出同然に結婚し、ずっと絶縁状態が続いていた。
零治郎の事業を手伝い、大きくしたのは二女(久太郎の叔母)だが、未婚のため相続人はいない。
会社の経営権と莫大な遺産をだれに相続させるつもりなのか・・・零治郎が毎年正月に書き直す遺言状をめぐって事件は起こる。
祖父の遺体が発見されたその晩、久太郎は「反復繰り返し」の時間の穴にはまってしまう。
ぼくが行動パターンを変えれば、犯行を防げる!
久太郎は、懸命に記憶をたどり、犯人とおぼしき人物を祖父に近づけないよう工作する。
やれやれ、と思ったのもつかのま、やっぱり祖父は遺体で発見される。
では、あの時点で、ぼくがちがう行動をとれば・・・
スパイラル状に少しずつ違う一日が繰り返されるのだが、そのたびに、母、叔母、従姉妹、兄弟、使用人たちの反応がかわり、
それぞれの本音が剥き出しになり、隠されていた確執と怨念と嫉妬と・・・
久太郎が頑張れば頑張るほど、事態が悪くなる。
明日にはリセットされるから、この人たちの記憶には残らないが、ぼくはもううんざりだ。
しかも、何度繰り返しても、祖父は殺される。もう、どうすればいいんだ?!
歳のわりに老成した高校一年生の一人称で語られる、奇妙な不思議な、可笑しな世界。
そりゃあ、こんな家族の、人間くさい生態を繰り返し観察していれば、年寄りくさくもなるわなあ>久太郎クン
青春・爆笑・スパイラル・タイムファンタジー・ミステリー。かな。