蜷川演劇




『ハムレット』(2004・8/29 ビデオ)

演出  蜷川幸雄
ハムレット  藤原竜也
父の亡霊・叔父王  西岡徳馬
母   高橋恵子
オフィーリア  鈴木杏

客席のほぼ中央にしつらえた舞台。ぐるりを網のフェンスが囲っている。まるで、工場跡地か刑務所のよう。
このフェンスが、場の中、外をうまく仕切っている。しかも、網越しにむこうが見えるし。

科白や展開は、まったく原作通り。なにも手を加えていない。見せるのは、演出と演技だけ。
藤原竜也やあいかわらず感情のこもった、役に入り込んだ演技。
高橋恵子は、妃の風格と品のよさ。若いころのスキャンダルの数々をすべて芸の肥やしにした円熟。
西岡徳馬も、声も表情も中年の渋さ。
末っ子が観劇したときは科白をかみまくっていたらしいが、さすがに、ビデオではそんなドジはなし。
鈴木杏がねえ・・・予想以上に頑張っているんだけど、 衣装も妃や王様と違ってシンプルで、
衣装負けしないよう気配りされたデザインなんだけど・・・どう見ても、東横線沿線あたりの女子高生にしか見えない。
でも素直な、ヘンに癖や力みのない存在感だから、がんばってン十年後には高橋恵子の域に達するよう、期待しておこう。
狂ったオフィーリアというと、川に流されるシーン、というのが反射的に浮かんでくるが、
あそこは妃の科白で説明されて いたのだね。どうも、映像の記憶が残っていたらしい。。。。。
劇中劇にでてくる芸人たちが、達者で味があった。
こういう脇がいいと、全体が締まる。

すべての関係者が死んだところへ(シェークスピアって、いろんなことが全部悪い方に転がって、
全員死ぬんだったね)、 ラスト、隣国の王子がさっそうと現れる。なんだか、漁夫の利、いいとこどり的登場。
そういえば、これはイギリス支配下のデンマークの話だったのね。
どういう時代背景だっけ・・・



『新・近松心中物語』(2004・2/17 名古屋御園座 2階8列36番)

演出  蜷川幸雄
脚本  秋元松代

実は初演を見ている。
梅川を太地喜和子、忠兵衛を平幹二郎、お亀を市原悦子、与兵衛・・が思い出せない(ごめんよ。役者さん)
古典的な心中物に森進一の歌・本水・紙の雪を山のように降らせる、など商業演劇としては斬新で実験的な演出で、
世間をあっと言わせ、 蜷川の名を不動の物にした舞台だった。
パンフを見たら初演は25年前だそうだ。 そうだよなあ。
子どもたちが少し大きくなって一息ついたころ、昼の部なら、幼稚園にいっているあいだになんとか行って帰れる。
直前に怪我や病気などしないようにと、祈る思いで切符を手配し、でかけた思い出の舞台。
以来、「キャッツ」「レ・ミゼラブル」など数年に一度、なけなしのヘソクリで舞台を見に行くようになったのも、
これがきっかけだった。
何度か再演されているが、今回は寺島しのぶが梅川を熱演、演出もリニューアルという。
しかし、それより、わたしが行く気になったのは、友人からの年賀状に「息子が(俳優めざしてがんばっていると聞いていた)
ちょい役ながら出ている」と書いてあったから。
パンフには顔写真と名前がかなりいい位置でのっていたが、群集の中の一人だったから、
おばちゃん、見分けがつかなかったよ(涙)
でも、頑張ってね!!

と、それはさておき本題。
粗筋はいまさら必要ないだろう。 感想だけを記す。
まず、音楽。
猪俣公章・作曲、森進一・歌から、今回は宇崎竜童・作曲、森山良子・歌に、
つまり、歌謡曲路線からポップス調へとイメージチェンジしている。
どうも森進一の声が耳に焼きついているせいか、さいしょのうちは違和感があったが、ラストのクライマックスではジンときた。
舞台。一幕目。
真っ暗な場内にわずかづつ明かりがともり、目をこらすと舞台上にうごめく人影。
男女の絡みが、あっちにもこっちにも。 演出を変えたと話には聞いていたが、これはいただけない。品下がった。
まるで死を予感させるような真っ赤な彼岸花が点々、という無常観ただよう前の演出のほうが断然いい。

さて、梅川(寺島しのぶ)
太地喜和子は、天性のフェロモンというか艶というか、仕草にも表情にも、"女"が滲み出ていた。
あれでは、忠兵衛でなくても、男はみんなイチコロ。という感じ。
寺島は、太地ほどのフェロモンはないが、生まれてはじめて男に惚れた女の一途さ、ほとばしる情を表現していた。
なにより、声がいい。よく通る。マイクのせいもあるかもしれないが、最初の場で遊び人たちが
からむシーンの科白が聞き取りにくかったのに比べ、カツゼツのよさ、声質の良さは、抜きん出ている。
忠兵衛(阿部寛)
平幹二郎という役者は、どうも好きになれない。神経質というか、癇症な印象がするのだ。
そういう意味では、封印切りは似合っていたかもしれないが・・・
阿部寛は、期待以上に、田舎から養子にきた世間ズレしていない男が、女に溺れ、前後もなにもわからなくなって、
"キレて"身を滅ぼす役にはまっていた。
ただ・・・与兵衛の田辺誠一ともども、背が高くて小顔で・・・なんかねえ、立ち姿が日本人じゃないみたい。(苦笑)
お亀(須藤理彩)
須藤理彩の出たドラマはほとんど見たことがない。だから、予見もないかわり、期待もしていなかったのだが、
これが思わぬ拾い物だった。
はっきり言って、(当時の)市原悦子より、いい。
世間知らずで、思い込みが激しく、恋に恋しているような、箱入り娘を可愛く生き生きと演じていた。
声も科白回しもいい。 "体当たりで賞"をあげたい。
与兵衛(田辺誠一)
前のとき、だれが演じていたか記憶がない、ということは、たぶんベテランがそつなく演じていたのだろう。
気が弱く、お人よしで、へらへらひょろひょろした与兵衛に、田辺がうまくはまっていた。
梅川忠兵衛が様式美、意地と義理のせめぎあい、といういまどきない設定とすれば、
お亀与兵衛は、笑いをとるカップルだし、リアリティのある設定だ。もうけ役といっていいだろう。
二人とも楽しそうに演じていた。
ほかには、お亀の母で与兵衛の姑、厳しいながらも情のある市を演じる新橋耐子が、さすがベテランの味。

となりの席にすわった、わたしとほぼ同年代の女性と少し言葉を交わした。
彼女も初演を見ていると言っていた。
そして、「やはり最初に見たのが、焼きついているわね」と。
「今日初めて見た人は、次に見たら、やっぱり、あっちのほうがよかったわって思うんじゃないかしら」
同感。だから、再演とかリメイクって難しいのね。
でも、恋に憑かれた若者の向こう見ずさ、熱に浮かされたような衝動、そして、そんなことはなかったかのような
郭の賑わい、こういう若者たちを飲み込んで流れていく世の無常・・・ という物語を表現する、という点で、
キャスティングを若返らせたことは成功だったのではないかな。




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